小説3
小出し3回目
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さらりと長い髪を掻き上げ、不機嫌そうに一人。
その影で今にも泣きだしそうな顔で様子を伺っている小さいのが一人。
「っかー。ベロンに小粒ペアか!」
面倒臭そうな表情を全面に出し、やれやれと顔を振りながら一言目の攻撃。
ベロンこと伊部紗織(いべさおり)、小粒こと金澤美緒(かなさわみお)。
小粒は身長通りだが、今だにベロンというあだ名に慣れない。
あだ名とは言っても、崇が一人でそう呼んでいるだけなのだが…。
言ってて言葉の響き的に恥ずかしくないのだろうか。
「そこに立たれてると邪魔なんだけど、どいてくれない?
それと、そのベロンっていうのやめて。子供臭くて癪に障るんだよね」
「何でだよ、うってつけじゃねぇか、ゲームに出てくるモンスターみたいでよ」
不機嫌そうだった顔の眉がピクリと動く。
冷たい視線を向けながら腕を組みなおし臨戦態勢へと入る。
「勘違いしないで?私、アンタより立派に人間やってるから」
「お前が立派な人間なら、地球平和は暫く先だなぁ…」
遠くを見上げるような仕草をしたあと、随分遠くにまで聞こえそうな大きなため息を漏らした。
視線こそ絡んでいないが、二人の間でぶつかり合う殺気がこっちにまでへばりついてくる。
うん、朝だ。
この二人のやり取りを見ずして朝は始まらない。
よくもまぁ毎朝啖呵の飛ばし合いが出来るもんだと、感心する。
しかし、これを止めるのは結局俺と金澤さんなのだからたまったものではない。
『崇、そろそろ行かないとホームルームが始まる時間だぞ。』
「はぁ…、アンタがいるなら顔見せるんじゃなかった」
「あーぁ、小粒も大変だなぁ、喧嘩っ早い女が友達でよぉ」
金澤さんは急に話を振られて目を白黒させている。
かわいそうだが見ていて面白い。
人間が実際に漫画のような汗をかけるなら、今頃大雨だろう。
「っ…行こ!美緒」
肩を2、3回払ってズンズンと廊下を歩いていく。
金澤さんが慌てて付いて行く途中で振り向きぺこりとお辞儀をした。
結局何の用だったのだろう。
「さて、俺たちもそろそろ行かないと間に合わなくなるな」
『毎度毎度飽きないな。いっそ付き合ってみたらどうだ』
「冗談!あいつと付き合うぐらいなら、一日中数学の勉強やってた方がマシだね」
基準がよく分からないが、こいつにとっては数学は死ぬほど嫌いという意味になるのだろうか?
「じゃあ、また昼にな!」
崇とは別クラスだ。
同じ学年とはいえ、崇のクラスは下の階にあるため、授業の合間に会うことはない。
学力別にクラスが分かれているのだが、万年赤点の崇は一番下のクラスにいる。
『あぁ、今日は学食か?』
「何だ、俺に手作り弁当でも作ってくれる彼女がいるってのか?」
まぁ、つまり学食ということなのだろう。
そんなに早くきたのなら弁当でも買ってきたのだと思ったのだが、
こいつは1時間も何をやってたんだ。
「分かった、じゃあ学食な」
もう大分人数も減ってきた廊下を教室に向かって歩く。
人数の少ない廊下は好きだ。
進行方向別に左右に分かれる廊下を我がもの顔で歩くことができる。
一時とはいえ、この学校で一番偉くなったような錯覚を味わえる。
確か1時限目は現国だったか。
そろそろ文理で分かれるんだったな…まぁギリギリまで考えることにしよう。
...to be continued