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「工事進行基準」にする場合の課題

前回は、工事進行基準会計が求められるようになった背景について、述べました。

長期請負工事に関する収益の計上については、これまでは「工事進行基準」または「工事完成基準」のいずれかを、選択適用することが認められてきたので、ほとんどの会社が「工事完成基準」を選択してきたわけです。

「どんぶり勘定」と呼ばれるようなシステム開発の請け方には、工事完成基準が一番合っていたというわけです。
ところが平成20年4月からは、工事進行基準に会計基準が統一されることが決定しました。

では、工事進行基準会計をどういう方法で行えばよいのでしょうか?

工事進行基準会計の先駆者である「建設業界」のシステムを得意とする、当社取締役の小幡に聞いてみました。
(以下、聞いた話です)


「建設業界では、工事進行基準における進捗度は、出来高という考え方が一般的です。
工事を請け負ったときには、工程別の実行計画と連動した、”実行予算計画の入力”を行います。
そして毎月、工事現場監督が完成度合いを、出来高(金額またはパーセンテージ)として査定し実績とするのです」

そして、こうも語ってくれました。

「しかし、工事の進捗で形あるものが出来上がっていく、ビルやプラントならともかく、
形が見えず完成できなければ意味をなさないソフトウエア開発において、出来高を明確にして、どこまで完成しているかを管理することは、非常に困難です」

「同じようにITの場合においても、各工程での成果物をあらかじめ数値で明確にしておき、設計工程であれば、ドキュメントが何ページ完成したのか、製造工程であれば、プログラムが何機能を完成したのかを
完成度合いを査定できる能力のある人間が査定することになるのだろうと思います」


なるほど、確かに成果物が何ページ、プログラムが何ステップと、予測できるのであれば、その数値を入れておいて、何パーセント出来上がったのかを測ることは出来そうです。

しかし、建設業界と違って、要件定義、基本設計、どの部分においても何ページ作ったら終わり、
何ステップ作ったから何パーセントということは予測はできません。

プログラムを大きく機能単位に数えることはできても、何ステップまでなどという予測はできそうにありません。

しかもプログラムの場合は、最後の機能が完成してみたら、「基本部分に仕様漏れがあったので、大きく改修しなければならない」ということさえあるわけです。

せいぜい、基本設計書の成果物を細かく分類して、「画面設計書」「帳票設計書」「ビジネスルール定義書」などと、分けて作業成果単位とするのでしょうか。

ところが、企業会計基準委員会(ASBJ)では、進捗を計るのに、建築業界と同様に「原価比例法」を挙げて、推薦しているのです。

----ちなみに、原価比例法とは----------------------------------------
決算日における工事進捗度を見積る方法のうち、決算日までに実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法をいう。
(企業会計基準公開草案第20号「工事契約に関する会計基準(案)」より抜粋)
--------------------------------------------------------------------

もうおわかりでしょうが、実際の発生原価をもって進捗を知るためには、契約からして実質的な正しい見積りに沿ったものである必要があります。
契約範囲や作業分担を明確にすることが確実に必要になります。

「なんでもやります」といった営業は、あり得ないというわけです。
また、成果物も細かく精査される必要があるでしょう。

そして当然のことながら、実際の原価がそのまま進捗度になるのは危険すぎます。
原価の累計が必ずしも出来高(完成の度合い)となるわけではないからです。

そこで出来高(進捗度)の実績値を登録し、計画値と常に比較することになります。

値はパーセントでも、工数(時間)でも、金額でも良いでしょう。
つまり、信頼性をもって工事原価総額を見積ることが重要となり、そのためには、工事原価の実行予算計画が実際に発生した、出来高と比較できる形のシステムまたはツールが、
必ず必要になるわけです。

また、実行予算計画も随時、見直しが行われることが、必要になるわけです。

だからといって、予算超過してしまった増額分を、お客様に転嫁できるわけではありません。
あくまでも、システム開発の損益を、会計基準にのっとってスタンダードで処理するということが、
求められているのです。

これからは、完成基準の適用も全く無いわけではありませんが、契約書において「なぜ完成基準なのか?」の正しい記述が、必要とされるようです。

ちなみに、「日経ソリューションビジネス5月15日号」によると、元請け企業が下請けから集めるデータは2つだと言っています。

・開発のコスト
・開発作業の進捗率

これは、ほとんど元請けが必要なものと同じではありませんか?

結局、「自社と同レベルのプロジェクトマネジメント体制を求め、進捗の実態を把握するのが基本である」とも書かれています。

要するに、すべからく、システム開発会社は、この考え方に慣れ、ノウハウを身につける必要があるというわけです。

Vol.00144

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2008年05月20日 12:00に投稿されたエントリーのページです。

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