2007.08.09

政府調達におけるオープンソースの採用

平成19年8月1日付け日本経済新聞(朝刊)の一面に、『電子政府推進へ初採用』として、OSにサン・マイクロシステムズ社のSolarisを採用した、との記事が掲載されました。

これまで、行政機関は情報システムを個別に発注・運用してきたました。各機関で各メーカーの独自のOSを使用しているため、連携がしにくく、他社への切り替えができずにいます。そのため、システム維持に莫大な費用がかかってしまい、新たなシステム開発に手が廻っていません。その温床が随意契約です。社会保険庁がその典型でしょうか。

その打開策として今回の採用を伝えています。


1.大規模システムは分離して調達
平成19年3月に『情報システムに係る政府調達に基本指針(以下、指針という)』が公表され、7月1日から適用が開始されました。

この基本指針の趣旨は、『各府省における情報システム調達について、競争促進等によりコスト低減や透明性の確保を図るための統一的ルールを定めるもの』としています。

指針のポイントの一つは、「大規模システムは分離して調達」。
ソフトウェア+ハードウェア+運用+保守の一括調達から、ソフトウェア、ハードウェア、運用、保守を分離して、さらに、ソフトウェアは「共通基盤システム」と「個別システム」に分離します。
共通基盤システムの上に、複数の個別システムが乗っかるイメージです。


2.分離調達で中小企業の参入促進
分離・分割して調達することで、技術力のある中小企業の参入機会を拡大し、価格の低減、技術水準の向上に資するとしています。

共通基盤の上で稼動する個別システムの開発を技術力のある中小企業が担うことを想定しています。

また、複数の事業者が参加すれば、相互牽制が働き、業務や技術のブラックボックス化のリスクを低減し、透明性が確保され、日程遅延や予算超過の早期顕在化が可能であると謳っています。


3.オープンな標準技術を採用
また、調達仕様書には「オープンな標準に基づく要求要件の記載を優先」としています。

サン・マイクロシステムズ社のOS:Solarisの採用は、この一環です。

さらに、内閣府の調達では提案書のフォーマットをWord形式等でなく、OASIS公開文書形式標準と記載しています。


4.本当に政府調達は変わるのか
「分離・分割調達」「オープンな標準」によって、政府調達は変わるのでしょうか?

メーカー独自のOSからの呪縛は解けそうですが、「共通基盤」「個別機能システム」の分離調達は機能不全に陥り、一括方式に舞い戻りそうに思えます。

理由としては、共通基盤と個別機能に分割したことによるリスクを「共通基盤システムの設計・開発の事業者に統合業務を併せて行わせる等の措置を講じる」ことで回避するつもりです。

そうなると、共通基盤システムの設計・開発の事業者のリスクは、計り知れないものになりそうです。分離調達により利害関係者が増え、各社のプロジェクト管理、ドキュメント様式を確認するだけでも、かなりの時間が必要です。

それでなくとも、ITプロジェクトの成功率は、4割にも満たないといわれている状況の中で、本当に統合業務が機能し、プロジェクトが成功裡に終了できるのでしょうか?

確かに、多重請負構造がなくなり、各事業者が責任をもってプロジェクトマネジメントに邁進すれば、成功率が上がるとも考えられます。

しかしながら、この点を差し引いても共通基盤システムの設計・開発の事業者のプロジェクト・マネージャーの負担は青天井に近いと思います。

理念はすばらいしけれども、絵に描いた餅になりかねません。
システムは人が作るものです。指針ではその点が全く蔑ろにされていて、発注者の責任回避ともとれる措置として、統合業務があるように思えてなりません。

平成19年7月18日に外務省が「ホストコンピュータシステムにおけるマイグレーションに係る改造 調達計画書(PDF)」を公開し、実際の調達が始まりました。

今回の基本指針が、プロジェクト・マネージャーにとって達成感の得られる制度であることを切に願います。

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