今週のアイロベックス

竹藤さんの螺旋階段とカフカの城のお話

最近、会社に来る途中、会社近辺の高校で卒業式が行われていました。
もうそんな季節なんですね。
自分には高校の卒業はよく覚えていないのですが、大学の卒業式というか、その時期のことはまだ記憶に新しいところです。

そのため、今回はそういった思い出話などを思いつくままに書かせていただきます。

私は大学生の時は美術部に所属していました。
部室はアトリエと呼ばれていましたが、他のサークルの部室とは違い、普通の教棟の一室にあり、普通に一室として繋がっていながら、施錠されていて廊下から入ることはできないのです。

部室に入るためには外側から螺旋階段を上って入室するしかなく、かなり変わった場所でした。
知らない人にはそこに部屋があることも気づかなかったのではないでしょうか。
学園祭の時だけ、開放されて自由に出入りできるようになり、特製ケーキを出す喫茶店になりました。

なぜそこに部室があったのかは今でもよく知りません。
螺旋階段で上る途中、手すりの隙間をくぐりぬけて、棟の屋上に降りることができました。
夏にはそこで昼寝をして、真っ赤になったりしたものです。
部室は全体的に古びていて、デッサン用の石膏像はすっかり変色していましたし、掃除をすると埃の中から誰も知らない卒業生の絵画が出てきたりしました。

そんな状態が、その部室での日々がずっと続くと思っていたのですが、私が四年生の時に、新しく大学サークル用の建物が増築され、美術部も移転しました。
今では螺旋階段を上ることもなく、エレベータで部室まで上がっていけます。
近代的で清潔で、広さもさほど変わらなかったはずです。

ただ、永遠に変わらないかと思われた時間が、実際には当たり前のように経過していて、当たり前のことながら変化していくのだ、という事実に戸惑っていました。

そういえば、大学2年の秋だったか、カフカをよく読んでいました。葉も枯れ落ち始め、銀杏の匂いがあたりに漂う頃のことです。

カフカの「城」が残りの数ページというところだったので、歩きながら読んでいて、部室への螺旋階段を上りながら読みきり、なんだ、これで終わりなのか、と思ってしまいました。
未完の作品だとは知らなかった私はさんざんに周り道をさせられ、迂回させられる話にすっかり徒労の感触を覚えました。

この一行に話が進まない小説をなぜ読んでいたのか、と思い起こすと、それは物語になっているからでしょう。
お話の中の、目標である城にはたどり着けなくても、物語は進んでいくのです。
時間軸に沿った人の一生のように。

まるで大学生のときは時間が止まっていて、日常が常に変わらず、円環を描いているかと思っていました。
けれど、円環を描くように、同じところにいるつもりでも、年月には逆らえず、前へ前へと進む限り、常に螺旋を描いているのでしょう。

卒業式のような、改まった式がなく、変化のない毎日を過ごしているつもりでも昨日と今日は、ほんの僅かながらずれてゆき、一回りしたときには同じ場所にはいないのです。
だから、卒業という明確な変化がなくても必ず変化し続けているのだと思います。

日々伸び続ける髪を、切ったときに初めて伸びたことに気づくように、日常の些細な変化は常にあって、
注意を向けていないと気づかないものなのかもしれません。

日常は常に変化している
そんなことに最近ようやく気づくようになりました。

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