今週のアイロベックス

「クラウド」の正体

ITの世界では昨年あたりから『クラウド』が大流行しています。
私もここしばらく『クラウド』どっぷりの仕事をしているのですが、
人と話をしたり、書籍を読んだりしていても、どうも認識が違っているなと思うことが時々あり、
『クラウド』という言葉は、いまだにはっきりとした共通の定義が固まっていないように思います。

『クラウド』は概念的には、ネットワーク越しにIT"サービス"が提供されること全般を指します。
ただ"サービス"といっても一般的には SaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、
IaaS(Infrastructure as a Service) という 3種類のものの総称で、
このうちどれを想定しているかによって、何を『クラウド』と呼んでいるのかが大きく違ってきます。


まず最もわかりやすいクラウドの考え方として、『ソフトウェア』の"サービス"提供があります。
ただ『ソフトウェア』といっても、さらに 2種類あります。
まず 1つ目は最終的なアプリケーションの動作を提供する SaaS(Software as a Service)というもので、
従来では ASP(application service provider)と呼ばれていたタイプのものです。
一般的には、どんな場所からでも使える高度なWebアプリケーションを提供することを指す場合がほとんどで、
SaaSでは Salesforceや、Gmailをはじめとする GoogleAppsが有名です。
ただ、従来のWebアプリケーションとは違い、操作性も Ajaxを使った快適なインターフェイスが採用されたり、
提供される機能も本格的な業務用アプリケーションにまで広がりつつあります。

『ソフトウェア』の 2つ目として、完成された単独のアプリケーションではなく、
データベース等のミドルウェアや、アプリケーション開発のクレームワークなどを
実行環境ごと貸し出すタイプの PaaS(Platform as a Service)があります。
PaaSでは GoogleAppEngineや Microsoftの WindowsAzure が有名で、
このプラットフォームに慣れると、高度なアプリケーションを開発する工数や、環境構築の大幅な削減につながります。

ただ、SaaS/PaaSいずれにしても利用者は『ソフトウェア』自体を購入/所有するわけではないので、
自由に自分の好きな場所にインストールできるようなものではありません。
その実行(の結果)を"サービス"として貸してくれるもので、実際には多くの人がこのアプリケーションを共有します。
ただ制限はありながらもある程度まではカスタマイズが可能で、そのカスタマイズを専門に行っているベンダーもあります。
(アイロベックスでは Salesforceと WindowsAzureでの開発/カスタマイズを得意としています。)
なお、PaaSを提供している会社は SaaS、SaaSを提供している会社は PaaSも提供するように拡大する方向にありますが、
今の段階ではそれぞれを得意としている内容が異なり、
まだ違う会社のものを組み合わせるようなことはあまり考えられていません。


さて、最後に IaaS(Infrastructure as a Service)についてですが、
これは"サービス"といっても、ハードウェアやインターネット回線のようなインフラをネットワーク越しに提供します。
従来ではホスティングと呼ばれていたものの延長に相当しますが、
IaaSで物理的なマシンではなく、多くが巨大な物理マシンを仮想化して分割して随時貸し出されます。
物理的なマシンをそのまま貸し出すわけではないため、ホスティングとはスピード感が異なります。
申し込んでから数分で新しいサーバーが使えるようになったり、
また必要に応じて即座に使用する台数をいくらでも増やしたりできる仕組みがあるのが一般的です。
多くの場合がリソースを使用した分だけ日単位あるいは時間単位で料金を払います。

IaaSを導入することで、例えば負荷の見通しが立たないサイト一般に公開する場合でも、
最初から大きなハードを購入したり太い回線を用意する必要がなくなります。
負荷が高くなることに応じて、スピーディにインフラを増強していくこともでき、
逆に不要になった時点で簡単にリソースを減らし、コストを削減することも可能になります。
ハードウェアに相当するものや回線に故障があっても、自動で別のものに置き換える仕組みを備えている場合が多く、
それらを自前で所有するリスクを減らすことができます。
AmazonEC2等が有名で、他にもniftyをはじめとした、様々なホスティング事業者が乗り出しています。
(私はここしばらく、この IaaSを提供する側にどっぷりはまっています。)


SaaS, PaaS, IaaS いずれにせよ、『クラウド』は今まで固定でかかっていた
システム開発の初期投資を定期的な費用に置き換え、自前でIT資産を所有するリスクを減らすことができるようになります。
ただ、総合的な費用を考えると必ずしも安くなる場合ばかりではありませんし、
従来のアプリケーション同様に、一度使い始めると他の会社のものに乗り換えることは簡単ではありません。

また、IaaSとPaaS/Saasの間には相互に利用しあうのには溝があり、自由な組み合わせは容易ではありません。
しかし、逆にその組み合わせをなんとか提供する新しい"サービス"が生み出せるなど、
従来の概念ではない新しい発想のビジネスが生まれていく可能性があり、
『クラウド』は今後もしばらく注目されている分野です。

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