市場調査に基づかない「差別化戦略」。差別化は手段ではない。考え方だ。姿勢であり、取り組みであり、人とのかかわり方なのだ。重視し、尊重し、祝福できる方法で人とかかわることだ。
この本の著者は、「競争戦略論」で著名なマイケル・ポーターと並び、ハーバード・ビジネススクールで絶大な人気を誇る、女性経営学者ヤンミ・ムン氏。同氏が、市場が成熟した現代においてブランドについて、新しい概念を語る、意欲的な著書である。
経営者や、事業会社のマーケターは、「自社ブランド」について見つめ直す良い機会になると思う。
企業やマーケターは市場に製品を増殖させ続ける。どうでもいいような違いを強調する才に長け、類似性を差別化と称する技を持つようになる。細部に没頭するあまり、その主張が妥当性をもたなくなり始めているのにもきづかない。VOSSを訪ねたとき、社員たちが、同社の水は競合他社よりもおいしいと心底信じているのを知って、私はかなり驚いた。
※VOSSとは、ノルウェーの高級飲料水ブランドのこと
http://www.vosswater.com
著者は、私たちが陥っている「競争」の正体を、「均質化」であると述べている。
ポジショニングマップや市場調査に限らず、どんな分析手法にも言えることだが、自社の競争力を測るという前向きな努力が、結果的には均質化を促すムチになってしまう。
確かに、差別化戦略のための競合調査を行うと、まず目が行くのは、他社に劣っている点。このビハインドを埋めることで、他社に勝っている差別化ポイントが明確になる。と勘違いしている事が多い。
実際、私もそう考えていた。
しかし、市場が成熟している現代では、この様な思考から、均質化が進み、結局、ブランドAも、ブランドBも、ほとんど同じ。と受け止められてしまっているのである。
なぜ、この様なことになってしまうのか。
ジェフリー・ムーア「キャズム」によって有名になった、「イノベーション普及理論」では、市場を5つのセグメントに分類している。
- イノベーター
- アーリー・アダプター
- アーリー・マジョリティ
- レイト・マジョリティ
- ラガード
しかし、このセグメントは、あくまで「未成熟な市場から生まれた馴染みのない新製品が普及する過程」を分析する上でのセグメントである。
一方、成熟した市場においては、著者は、下記5つのセグメントを提案している。
(1)知識豊富な「カテゴリー通」
これは、いわゆる「家電芸人」、「おたく」と言われる様な人を指していると読み取れる。
(2)目ざとい「買い物上手」
いわゆるミーハー的な人を指していると読み取れる。
(3)関心の薄い「現実主義者」
習慣や価格、便利さなどに基づき購買を決定する、無関心な常連客と読み取れる。
(4)いやいや関わる「不本位な人々」
本には、しぶしぶかかわる消費者とあったが、必要に迫られた時に、何も考えずに購入する客ということかと思う。
(5)理屈抜きの「熱心な愛好家」
いわゆる、ロイヤルカスタマーの事であると読み取れる。
つまり、成熟した市場=多すぎる選択肢に対して、消費者がどの様に対応するかということである。
上述の分類を見ると、
特に家電量販店での出来事を想像して欲しい、
知識豊富な「カテゴリー通」が、
理屈抜きの「熱心な愛好家」を、
関心の薄い「現実主義者」に
変化させてしまっているという光景を、容易に想像できるのではないであろうか。
さて、本書では、この均質化の競争の群れから脱出する手段として、「アイデア・ブランド」となることを提唱している。
「アイデア・ブランド」には、Googleの様な「リバース・ブランド」、ソニーのAIBOの様な「ブレークアウェー・ブランド」、レッドブルの様な「ホスタイル・ブランド」がある。
本書では、それぞれ今までのブランドとの違いを記載していたが、私は読みながらも、ひとつ違う視点に気づいた。
それは、各ブランドともに、「人に話したくなる『こだわりの』ストーリー」があること。
私が本書を書いたのは、私たちはもっとうまくやれると考えるからだ。「もっと多く」を行うのではなく、自分たちがやっていることは何なのかを考える必要がある。
自分たちが本気で、本心で、消費者視点で、こだわっている偏りは、「しっかりとやり続けること」で、そして、「そのこだわりを発信しつづけること」で、多くの共感してもらえるお客様との出会いを作れるのだと、この本を読んで気づきました。
目次
序 棚に並ぶシリアルは、どれも同じに見える
第一部 私たちが陥っている「競争」の正体
自覚はなくても、同じ方向を目指している
よくしようという努力が、感覚を麻痺させる
選ぶだけで大変すぎて、愛着どころではない
競争の群れから抜け出すには
第二部 私たちの目を奪うアイデア・ブランド
世の流れの逆を行く「リバース・ブランド」
既存の分類を書き換える「ブレークアウェー・ブランド」
高感度に背を向ける「ホスタイル・ブランド」
ひと目でわかる違いを出せるか
第三部 私たちは、人間らしさに立ち返る
生まれたてのアイデアには、呼吸する時間が必要
私たちは、もっとうまくやれる
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