『論語』とは、儒教の聖典と呼ばれ、『孟子』『大学』『中庸』と併せて儒教における「四書」の1つに数えられる。
過去に何回か読んでみようと試みたことがあるが、いつも挫折していた。理由は、文章が難しいから。理由は、中国の原文(漢文)を「読み下し文」で書いている本が多いためである。
※「読み下し文」とは、漢文を日本語の語順に直して読むこと。
※一方、「書き下し文」は、漢文を訓読するとおりに、かなまじりで書くこと。
漢文が、そもそも苦手な人では、これでは論語を読むことができない。悔しい思いをしてた所、深夜のコンビニで運命の出会いがあった。それが、この本である。
本書は、論語を、内容の理解に重点を置き、現代語訳化した上で、さらに平易な日常的な口語訳で書かれている。
例えば、
【原文】剛毅木訥近仁
【読み下し文】剛毅木訥(ごうきぼくとつ)、仁に近し
【口語訳】飾りっ気がなくて無口な人は、意外と人間愛にあふれている人だ
となる。
これは、分かりやすい!
一度は読んでみたかった論語、文章の難解さから挫折した経験がある方は、ぜひ手にとってもらいたい一冊である。
論語は、次の20編で構成された書物である。
学而第一(がくじ)
為政第二(いせい)
八佾第三(はちいつ)
里仁第四(りじん)
公冶長第五(こうやちょう)
雍也第六(ようや)
述而第七(じゅつじ)
泰伯第八(たいはく)
子罕第九(しかん)
郷党第十(きょうとう)
先進第十一(せんしん)
顔淵第十二(がんえん)
子路第十三(しろ)
憲問第十四(けんもん)
衛霊公第十五(えいれいこう)
季氏第十六(きし)
陽貨第十七(ようか)
微子第十八(びし)
子張第十九(しちょう)
堯曰第二十(ぎょうえつ)
本書も、全20章に分かれており、著者が特に重要と思った200項目が各章に分けて書かれている。
論語は、聖徳太子の17条憲法に始まり、江戸時代の儒学、戦後の教育勅語と、戦前までの日本人の道徳教育の支柱となっていた。
※17条憲法 第一条「和をもって貴しとなす」は、『論語』学而第一の「有曰く、礼の用は和をもって貴しとなす」を基にしている。
そして戦後において、日本人が元来備えていたはずの、美しい躾や礼節が回帰されるなか、道徳教育の原点である『論語』が見直された。
一読して読んだ感想としては、経営哲学にも通じる、素晴らしいものだと感じた。
この本自体がPHP研究所から出版されていることでも分かる様に、松下幸之助の経営哲学に通じるところがあるのだと思う。
※ちなみに、PHPとは、「Peace and Happiness through Prosperity(繁栄によって平和と幸福を)」の頭文字をとった語で、「物心両面の繁栄により、平和と幸福を実現していく」という松下幸之助の願いが込められている。
→ PHP研究所
例えば、次の文章からは、理想の経営者像が浮かび上がってくると思う。
・人の上に立つ者は言語動作がどっしりと落ち着いていないと威厳がなく、人を畏怖させることはできない。人に対しては忠実信頼をもって接し、決して自分より劣った者を相手にして偉ぶってはいけない。そして、もし過失があるときは体面など繕わないで、ただちに過ちを改めるべきだ。
・子貢が「君子とはどのような者ですか」と聞いた。孔子が答える。「君子とは、まず行動を先に見せ、その後にものをいうものである」と。
・立派な人は「義」で理解し、心のできていない人は自分にとっての利益の有無で理解する。
・「何ごとも上の者が見本となること。国民に働いてもらいたいと思えば自分から働くこと。そして、いまいったことを守って飽きることなくずーっと行うことだ」。
・「政治はあせってはいけない。眼前の小さな利益にとらわれてはいけない。効果を早く望むと、かえって目的を達することができなくなる。目先の利益にとらわれると、大きな事業をやり遂げることができない」
・心のできた人は何ごとも自分の責任とするが、心のできていない人は何ごとも他人のせいにする。
・心のできた人は、過ちがあればすぐに改めるが、心のできていない人は改めるどころか、言い訳をしてそれをごまかし、自分も人も欺く。
また、職場や会社、組織作りという観点からも、次の様な内容が参考になる。
・村里は都会と違って仁の風習に厚く、こうした土地にいれば、自然と徳が育ち、仁に厚い人間となる。もし住居を選ぶとすれば、このような風習のある村里がよい。それでこそ知者といえる。いい環境はいい人を創るものだ。
・国民が道徳を守っているのは、政治に対する信頼があるからであって、どうしてそうしなければならないかを、いちいち説明することは難しい。
売上や利益は大事である。しかし、社員とのコミュニケーションがその話題に偏ってしまっては、それは非道徳的な会社組織となってしまう。
社員の現状を、しっかりと理解し。決めつけのコミュニケーションではなく、相手を受け入れるコミュニケーションに努め。しっかりと道徳的観点を持ち、その上で利益を追求していく姿勢を身につけていきたいと改めて思った。
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