小倉昌男 経営学

2011年6月 1日  仕事一般  中津川

著者がご存命の内に読んでおきたかった一冊です。本書を読んだ後、著者の更なる哲学を学びたいと思わずにはいられません。


小倉昌男氏は、大和運輸(現ヤマト運輸)の創業者である小倉康臣を父に持ち、ヤマト運輸の2代目として社長に就任しました。

社長就任直後は、経営危機の渦中。そんな会社において、宅急便構想を打ち立て、個人宅配市場というブルーオーシャン(新しい市場)を創造し、ヤマト運輸を日本一の運送会社へと作り上げた偉大なパイオニアです。

「成功した経営者」の一人として一躍有名になり、出版社から多くの執筆依頼が舞い込む中、「成功した経営者が自らの経営談義を出版すると、やがてその企業自体は不振に陥り、一転、失意に陥る」。そんなジンクスを頑なに守り続け、長い年月の間、一切の執筆依頼を断り続けていました。

そして、断り、断り、断り続けた後に、著者自ら「生涯に最初にして最後、一回限りの著作」と言わしめた一冊が、本書です。


宅急便の開発で運輸省や郵政省と闘った経験を多く持ち、積極的な規制緩和実行者としても有名です。


現状を打破して、『未来』を創造していきたい経営者や、リーダー、管理職にお勧めの一冊と言えます。

本書は、タイトルの通り、『小倉昌男の経営学』が満載の内容となっています。その中から、私の心に刺さった3点に絞って、ご紹介します。


■ 供給者の論理、利用者の論理

サービスを提供する供給者の論理と、サービスを受ける利用者の論理は、正反対の場合が多い。供給者はとかく自分の立場に立って考える、つまり、自分の都合を中心に考えるのである。でも、それは間違っていないか。

よく、レストランで食事をしている客が従業員の態度が良くないと言って怒ることがある。経営者は「従業員には接客態度について厳しく教育しています」と言うだろうが、実際の現場では、従業員同士がお喋りに夢中で客が呼んでも気がづかないケースなどが日常茶飯事だったりする。


この例も、分かり易い。


供給者はとかく自分の立場に立って考える。と口で言うのは簡単だが、いざどういうことなのかと聴かれると、具体的な例を提示することは難しい。

例を、特に自社の例を提示できるのであれば、それは利用者の論理が分かっているということであるから、こんな問題も、そもそも起きないと思います。


キチンとお客様からいただいた「クレーム」には真摯な姿勢で臨み、供給者の論理を出すことを抑えて、現実に直面すべきなのだと思います。


■ 「サービスが先、利益は後」「安全第一、営業第二」

宅急便成功の秘訣は、全国のネットワーク網もそうだが、それよりも明確な行動指針の優先順位が存在しているということが重要だと思いました。


企業経営において、人の問題は最も重要な課題である。企業が社会的な存在として認められるのは、人の働きがあるからである。人の働きはどうでもいいから、投資した資金の効率のみを求めたいという事業家は、事業家をやめた方がいいと私は思う。事業を行う以上、社員の働きをもって社会に貢献するものでなければ、企業が社会的に存在する意味がないと思うのである。

先に利益のことを考えるのをやめ、まず良いサービスを提供することに懸命の努力をすれば、結果として利益は必ずついてくる。

利益のことばかり考えていれば、サービスはほどほどでよいと思うようになり、サービスの差別化などはできない。となると、収入も増えない。よって利益はいつまでたっても出ない。こんな悪循環を招くだけである。


サービスと言っても、実は広範囲に渡るのです。ある人は「サービス=顧客満足」と思うでしょうし、またある人は「サービス=生産性向上」と思うでしょう。

ただ、そのサービス向上のことを、まずは第一義的に考えなければならないという視点は、私の中でも大きな気づきとなりました。

さて、だからと言って、明日から「サービスが先!」と言い出してしまうと痛い目を見るということも、著者は説明しています。

ただし、「サービスが先、利益は後」という言葉を、社長が言わずに課長が言うと、そこの社長に、「お前は利益はなくても構わないと言うのか」とこっぴどく叱られるおそれがある。「サービスが先、利益は後」というのは、社長だから言える言葉である。だからこそ、逆に社長が言わなければならない言葉なのである。

会社は社長の鏡とはよく言ったもので、社長自身が変わらなければ、会社、社員は変わらない。

「自分は変わったのに会社は変わらない」と嘆いているのであれば、もっと根本的な行動を変える必要があるということだと思う。Think や Talk が変わるだけでは、変わったとは言えない。行動を変えるからこそ、結果も変わってくるのです。


また、この行動指針の優先順位の明確化は、こんな言葉でも表現されていました。

「安全第一、営業第二」とは、営業を第二とすることで、本当の第一は安全であることを強調したのである。

どんな工場にいっても「安全第一」の標語が掲げられていないところはない。しかし安全第一の言葉は、マンネリの代名詞のようなもので、どれだけ実効を上げているか疑問である。というのも、第二がないからである。


「安全第一、利益はそれよりも更に第一」という会社では、趣旨が完結しないということです。こういった所にも、著者の明確な経営哲学を伺い知ることができます。


■「全員経営」

経営の目的や目標を明確にしたうえで、仕事のやり方を細かく規定せずに社員に任せ、自分の仕事を責任を持って遂行してもらうこと。

つまり、全社員が同じ経営目的に向かい、同じ目標を持つが、目標を達成するための方策は社員一人ひとりが自分で考えて実行する、つまり社員の自律的な行動に期待するのである。社員に目標は与えるが、会社側はやり方について命令したり指図したりせず、社員がその成果に責任をもって行動する、というものである。


この目的のもたせ方、責任のもたせ方が素晴らしいと思いました。

「ヤマトの社員は、目的をはっきり理解していて、その達成に責任を負っている。」

自社の社員に対して、ここまで信頼しきること。それがリーダーシップにおける大事なひとつの要素なのだと思います。


商業貨物の輸送では、荷主の工場や倉庫の出荷担当者の所へ行って貨物を受け取る。毎日が決まった作業で、考えたり迷ったりすることは何もなかった。

一方、宅急便になるとその手は全然使えない。荷主は不特定多数である。毎日の出荷の場所が変わる。あらかじめ出荷の情報を得ることはできない。結局、第一線のドライバーがアンテナを張り、出荷の情報をつかんで対応する以外に方法はない。

ドライバーの呼称をそれまでの「運転手」から「セールスドライバー」に変更した。

仕事の名前、職種名、自分が何と呼ばれるかは、大事だと気付きました。

部長、部長と呼ばれていれば、自分がそうは思わなくても「部長らしさ」を気にする様になる。そう言ったことが人間の潜在思考にはあるのだと思います。

だからこそ、安易に「営業」だとか「事務」だとか付けるのではなく、仕事のビジョンを明示した様な職種名を考案することが大事なのだと気付きました。


働く人にとってもやり甲斐のある方式で、社員に楽しく働いてもらうことができた。

本書を読んで、こういった職場作り、こういった会社作り、こういった人との接し方を行っていくことで、著者は理想的な会社像を作り上げてきたのだとわかりました。

わたしも、自身を持って「社員に楽しく働いてもらうことができた」と言える人間になりたい。そのためには、まずは行動を起こしていく必然性を、再認識しました。

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